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2017/07/19

祝詞語彙16

万葉集巻第一より

【十六番歌】
冬ごもり 春さり来れば 鳴かざりし 鳥も来鳴きぬ 咲かざりし 花も咲けれど 山をしみ 入りても取らず 草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてそしのふ 青きをば 置きてそ嘆く そこし恨めし 秋山そ我は

〇冬ごもり 春さり来れば……「冬ごもり」は春にかかる枕詞だが、なぜ春にかかるのか不詳。「春さり来る」は「春がくる」。一説に、この語句には古代人の思考が反映されていて、春はどこかから少しずつ離れ、今自分の場所にやってくるもので「離れ」の部分も含め「去り」くる、と呼びならわしていたという。

〇山をしみ……「しみ」は「繁っているので」。本来「しげみ」とあるところ。

〇黄葉……モミチと濁らずに読む。モミジと読むようになったのは平安時代以降。「紅葉する」という意味の動詞、モミツと類縁関係にある。

【補足】
「山をしみ 入りても取らず 草深み 取りても見ず」がほぼ対句になっている。
 すでに述べたように、AをBみの形で「AがBなので」という意味になる。本歌中「草深み」のように「を」は省略されることがある。
 Bにはク活用の語幹が入るが、シク活用の終止形が入ることもある。例えば「懐かしみ」「をかしみ」「苦しみ」など。高校まででは、これを教えず、受験の知識としては「Bにはク活用の語幹が入る」とするだけで十分である。これは、「懐かしみ」「をかしみ」「苦しみ」などが形容詞の名詞化なのか、動詞の名詞化なのかがはっきりせず、大学受験で問題にしにくいからだろう。
「黄葉」について。
 万葉集では「紅葉」「赤葉」が一例ずつ、紅葉するという意味で「赤つ」と表記したのが二例で、圧倒的に「黄葉」と書かれることが多かった。漢籍の影響を指摘する人もいれば、実際に黄色い葉を見る機会が多かったからとする人もいる。なお、上代ではカエデだけではなくハギなどの葉、また一山全体の色づきを「黄葉」と表現するので、現代よりもモミジの範囲は広い(『万葉語誌』多田一臣編、筑摩書房)。

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