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2017/07/05

祝詞語彙5

万葉集巻第一より

【五番歌】
霞立つ 長き春日の 暮れにける たづきも知らず むらきもの 心を痛み ぬえこ鳥 うらなけ居れば 玉だすき かけのよろしく 遠つ神 わが大君の 行幸の 山越す風の ひとり居る わが衣手に 朝夕に かへらひぬれば ますらをと 思へる我も 草枕 旅にしあれば 思ひ遣る たづきを知らに 綱の浦の 海人娘子らが 焼く塩の 思ひそ焼くる わが下心

〇たづきも知らず……後述。
〇心を痛み……「AをBみ」のかたちで「AがBなので」の意味(いわゆるミ語法)。Bに入るのはク活用の形容詞。上代に特有の語法。
〇玉だすき かけのよろしく……「玉だすき」は掛詞。「かけのよろしく」は、ことばだけでも嬉しい。
〇かへらひぬれば……「かへる」「ふ」「ぬ」「ば」が結合。「ふ」は反復または継続の意味をもつ助動詞。上代以降あまりつかわれない。
〇たづきを知らに……後述。「に」は打消の助動詞「ず」の連用形。上代以降、つかわれなくなってゆく。

【補足】
「たづきも知らず」が歌中で二度つかわれているが、「たづき」の意味が少々異なっている。
ひとつめは「霞立つ 長き春日(はるひ)の 暮れにける たづきも知らず」で、霞の立つ春の日が長くて、いつ暮れたのかわからない、という意味。ふたつめは「草枕 旅にしあれば 思ひ遣る たづきを知らに」で、旅行中なので、じぶんの思いをどうすべきかがわからない、という意味。前者が状態をさすのに対し、後者は手段・方法をさす。

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