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2019/08/11

ハイヒールの音

百物語 第五十八夜

ハイヒールの音

※怪談です。苦手な方はご注意ください。




 残業で遅くなった日の夜のことです。

 帰宅しようと地下鉄に乗りましてね、いちど乗り換えるんですが、連絡が悪くて結構歩くんです。

 同じ駅で降りる人もあまりいなかったくらいで、連絡通路に出たときには、あたりには誰もいませんでした。

 早く帰りたかったので、急ぎ足で歩いていると、誰かの足音がこちらへ向かってきているのに気づきました。

 カツン、カツン、カツン……と。

 ハイヒールのようでした。

 私の進む道は、つきあたってから左手へと曲がるものですから、当然、角を曲がったときには女の人が歩いているのを予想しました。

 向こうも足早に歩いているようです。

 遠ざかっているのか、近づいているのかは、よくわかりません。ですが、足音の様子から、何となく二十代かなと思いました。

 その間にも、ハイヒールの踵や爪先が立てる音が、続いていました。

 カツン、カツン、カツン……。

 だんだん音が大きくなってきました。

 こっちにくるのかと思いつつ角を曲がっても、予想していた女の人の姿はありませんでした。

 しかし、なおも音がしています。

 カツン、カツン、カツン……と。

 私は思わず、立ち止まりました。

 ヒールの音はそのまま私と行き違って、それからしだいに遠くなっていきました。

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