百物語 第六十夜
プレ初夢
※怪談です。苦手な方はご注意ください。
俺が大学一年のときのことなんですけどね、年末だからって実家に帰りまして、毎日、遊んでたんです。
けっこうみんな田舎に戻ってきてたし、高校卒業して以来、初めて会うってやつもいまして、もう毎日ですよ。夜遅くまでダラダラ遊んで、たまに実家に帰るくらいでね。だいたい実家っていっても、うちは団地ですから部屋が狭いんです。それを理由にして出かけてくんですが、親は「よく飽きないもんだ」って、いってる本人の方が飽きれるくらいでしたね。
そんなことしてるうちに、大晦日になったんです。
その日は最初、カラオケに行って歌ってから、仲のいいやつの家に行ったんです。
大晦日ですからね。何だか家族の人たちは忙しそうなんですが、迷惑も顧みず、テレビゲームをずっとしてたんです。コンビニで弁当とか飲物とか買って、持ち込んでたんですけど、年越しそばを御馳走になって。それから友人と一緒に初詣に出て、それから別れて家に帰ったんですよね。
うちは三階ですから、団地の階段をあがっていきますとね、上の階で何やら騒いでいました。
でも、初詣にでも行くんだろうなって気にせずに家に入ると、両親は寝ているようでした。起こさないようにって昔の自分の部屋にそっと入って、ベッドの上で横になりましたら急に眠くなりまして、すぐ寝ちゃったんです。
それで、夢を見たんですよね。
なぜか、友人の家から帰ってくる途中なんです。さっき戻ってきたばかりなのに。ちょっと違ったのは、真夜中に帰ってきたはずが、空が真っ赤だったことです。
はい。夢の中の私は、これは夢だと気づいていました。その反面、帰ってきたのって夕方だったかな、と疑ってもいまして、ちょっと混乱していました。そうして、次の角を曲がるとうちの団地が見える――というところまできたとき、奇妙なものに気づいたんです。
両側の民家の塀に筆書きの紙が、規則正しく貼られていたんです。まるで書道展みたいでした。さっきはこんなの貼ってなかったんだけどなあ、って不思議に思いながら見てみると、
「ひとりで悩まないで相談を」
「借金を一本にまとめよう」
「今からでも遅くない」
「ご両親が泣きます」
なんて、かなりうまい字だったんです。
うわあ、変な夢だなあと思いつつ角を曲がりました。団地の建物が目の前に見えるはず……と、そこで、
「ちょっと! 起きなさい! 早く!」
と、どやしつけられたんです。
慌てて起きて、身体を起こしたら、目の前に母親が立っていまして、憤怒のご様子。
「ここで寝たらだめ! ほら、早く!」
寝ぼけ眼をこすりながら居間に入って、ソファーに座りましてね、わけがわからないから、どうしたんだって聞いたんですよ。そしたら、
「上の階の人が亡くなったのよ。あんたの部屋の上に今、仏さんがいるから!」
そこへ父親が現れましてね、
「……自殺だってよ。借金あったらしいな」
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