百物語 第九十九夜
角の生えた藁人形9
※怪談です。苦手な方はご注意ください。
ひととおり、お話は聞きましたが、最初に言ったように、うちにそんなものを持ってこられても、ね……。申し訳ないけど、そうとしか。うちじゃ、お焚き上げっていうのは、やってないんですよ。
いやいや、一般の方のイメージってあるから。それはいいんですよ。神社ならどこでも、預ってお祓いしてお焚き上げして……っていうのを、やってると思われても、ああそうなんだろうなってね。
最近は少ないけど、夏になると心霊スポットに行ってとりつかれた、お祓いしてくれって深夜にくる若い人もいますよ。
うちじゃもう、相手にしませんけどね。インターホンが鳴っても出ない。こっちだって寝てるんだし、そういうのって自業自得ですから。
話がそれました。
あなたは、祖先から受け継がれてきた、恐らくは呪いがかかっている藁人形を、他人の家に置いてきた。
職業が建築屋さんだからって、それをいいことに、壁の裏の見えないところに貼りつけるようにしてから、壁で覆った。
ところが、最初に藁人形についていたものが、このパイプに移って、あなたのもとへ戻ってきた。
あなたの話をこう聞いたんですが、そう理解して、よろしいですね?
私にはとても信じられませんが……このパイプについているシミが、藁人形にそっくりだと。まあ、私にもそうは見えますけれども。
今話した肝試しじゃありませんが、自業自得に思えますけどね。いや、失礼は承知です。
それに、その藁人形……ですか? 姿を変えて、あるべき場所に戻った、ということかもしれない。それで何の問題があるんでしょうか。
あなたの話が本当だったとしても、藁人形がパイプになって、あちこち移動している間のことは、私にはわかりませんよ。
でも、これだけは言えます。
藁人形でも、パイプでも、関わった人が何らかの……恐らくは嫌な感情を抱いたのはまちがいありません。
はっきり言いますね。原因をつくったのは、あなたなんですよ。たくさんの人に嫌な思いをさせた張本人なんですよ、あなたは。
お焚き上げはしてませんが、これをお祓いしろって言われたら、そりゃあしますよ。
ご神前で祝詞を読んで、おおぬさ、あの紙を垂らしたやつでサラサラとやりますよ。
あなたはそれで、気が済むかもしれない。
スッキリして帰るかもしれない。
でも、あなたがここに持ち込んだパイプ……もしくは藁人形ですか、それに関わった人の気持ちはどうなんでしょうね。
これを持っていたら嫌な思いをする。だから、人に押しつける。そうして押しつけあって、今に至る。
偉そうなことを言ってますけど、私だって嫌な思いはしたくありませんよ。
家族がいますから、何か私の身に起こっても嫌ですし、それのせいで家族の身に災難が降りかかるのはもっと嫌です。
私だって、これに関わった人の立場だったら、同じことをしていたかもしれない。
あなたの立場だったら……やっぱり、あなたと同じことをしていたかもしれない。
ただ、たまたま私の家には、代々伝わるそんな藁人形はなかった。
あなたの家には、たまたまあった。
あなたの責任は、その藁人形とやらを、どうにかしようとして人様に迷惑をかけたことだけに限られるような気がしますがね。
……私が言えるのは、これくらいでしょうか。
どうですか? お祓い、していきますか?
……そうですか。まあ、そうですね……人をたどって謝ってまわるのは、現状では難しいかもしれませんね。
神様に謝って何とかしてもらう……まあ、それもひとつの考え方でしょう。
それで、お祓いのあと、どうしますか? そのパイプは。うちじゃ預れませんし……。
はい、ではお焚き上げしているところを紹介しますか。
北海道の相内神社、というんですが……。