今日の北見市相内町も寒く、参拝者の方もあまりお見えになりませんでした。画像、ちょっと小さいですがゴジュウカラが参拝していたくらいです。そこでまた祝詞の話題を。
昨日の祝詞とは別に、今秋の御大礼に関して、神社の恒例祭のときにこんな内容の旨、祝詞につけくわえてください(「辞別=ことわきて」として)という例文がきていました。
天皇陛下はあす悠紀・主基の国(都道府県)をお決めになります。大嘗祭や大饗の儀のために、この悠紀・主基の国(都道府県)から斎米や穀物が献納され、その他の都道府県からも産物が献納されます(庭積机代物)。そのような農作物が豊かに稔りますように、御祭儀などつつがなく行うことができますように、お願いしてください、ということです。二種類あり、ひとつはじぶんの住む都道府県が悠紀・主基の国と決まった場合(A)、もうひとつは洩れた場合(B)となっています。
Aの文面は内容上、Bに悠紀・主基の国と決まった旨がつけくわわったものですので、Aの方を見てみましょう。書き下し文をつくって送り仮名をつけたのですが、あまり多くなりすぎたので末尾に掲げることにしました。
辞別きて白さく、(1)畏くも天皇には今年十月の吉日に即位礼執り行ひ、十一月の吉日に大嘗祭をも、厳しく (2)斎ひ行はせ給ふ事の由を、(3)仰せ出させ給ひて、古の法の随に、神卜に卜へ給ひし程に、この(都道府県)を悠紀(主基)の地方と (4)勅定めさせ給へり。かれ、県内挙りて (5)厳の誉れと喜び祝き奉りて、仕へ奉る状を、愛ぐしと看行はし、大神たちの大御稜威以ちて、県内隈なく祓へ清め給ひて、悠紀(主基)の (6)田の奥つ御年を初めて、県内より献らむ海川山野の種々の (7)物実をも、浄く清しく豊かに稔り足らはしめ給ひて、天皇の大御代に一度の御大礼を厳しく美はしく畢へさせしめ給へと、恐み恐みも白す
(1)「畏くも天皇陛下におかせられましては」などの古語への直訳でしょう。延喜式祝詞(春日祭)のように「畏くも」は「畏き」とするか、「掛けまくも畏き」「掛けて白さくも畏き」などとする方がよかったのではないでしょうか。これら一連の語句は「辞別」として祝詞の最後につけくわえるのであって、すでに祝詞の冒頭で「掛けまくも」を使うことが多いから、という理由から単に「畏くも」としたものかもしれません。
(2)「斎行する」の古語への直訳でしょう。(1)同様、もっとよい言い方があるはず。
(3)「仰せ出す」は尊敬語ですので、「給ふ」をつけて「仰せ出させ給ふ」とするのは過剰敬語です。
(4)「勅定め」でサダメと読むようになっています。これも「勅定」の直訳なんでしょう。
(5)「この上なき誉れ」くらいに考えてこうしたのでしょうが、このような「厳の」の用法は聞いたことがありません。念のため辞書を引いてみると「いつ」の意味は、原義として「自然・神・天皇が本来持つ、盛んで激しく恐ろしい威力。激しい雷光のような威力」があり、①神霊の威光・威力、②強く激しい威力のあること、③自然の勢威の盛んなこと。植物などが激しく生長すること、④神聖であること、とあります。かろうじて④にあてはまりそうですが、④の意味ではうしろに「の」をとらず、「いつ幣」のように直接次の語につきます。
(6)訓はミタですから「御田」でいいんじゃないかと思います。その方が読み違える可能性も低くなります。
(7)「物実」は「種子などの生成のもとになるもの」ですから、ちょっと内容にそぐわないのではないでしょうか。神饌を指す表現として「海川山野の種々の物」をよく使いますから、神饌そのものではないからと区別したかったのかもしれませんが、それにしても「物実」には違和感があります。
全体にわたって気になった点は、以下のふたつ。
①「大嘗祭」をオホニエノミマツリと読むのは、神職ならばだれでも勉強していますからともかくとして、「即位礼」をアマツヒツギシロシメスイヤワザ、「御大礼」をオオミイヤワザと読むのはなかなか大変ではないでしょうか。こうした熟字訓的な読み方が好きなのは、神社本庁の例文の特徴ではありますが、実務上は「天つ日嗣知ろしめす礼業」「大御礼業」と書いた方が読み間違う可能性を防げます。
②敬語の問題。この祝詞では天皇に対し、最高敬語をほぼすべてで用い、ご祭神に対しては普通の敬語にしています。これは信仰の問題にもかかわりますので、各人の考え方によるとして、天皇に対して敬語を用いている部分は以下の四つ。この中に仲間外れがありますが、皆さん、わかりますか?
斎ひ行はせ給ふ
仰せ出させ給ひ
勅定(さだ)めさせ給へり
卜(うら)へ給ひし
正解は最後の「卜へ給ひし」で、これだけ最高敬語ではありません。みな最高敬語で統一するとして「卜へさせ給ひし」とした方がよかったのではないでしょうか。「仰せ出させ給ひ」が過剰敬語だとはさっき申しました。「これだけ過剰敬語だから仲間外れ」と考えた方も正解です。
祝詞文中の敬語に関しては、むずかしい問題をはらんでいますので、稿をあらためていずれお話ししましょう。もっと問題なのは、以下の語句。
畢(お)へさせしめ給へ
助動詞「す」「さす」「しむ」には使役と尊敬の意味がありまして、これらを同時に使うことはできないのです。ここでは「させ」「しめ」となっている部分がどちらかが不要で、つまりは文法上の間違いです。まさかここも最高敬語にしたかったわけでは、ありますまい。
ちなみに、ここはご祭神への敬意を示す部分です。
以上、重箱の隅をつついて参りました。初めにつくる人の方が大変で、こうして「ああでもない、こうでもない」という方は楽かもしれません。この例文をくんで皆さん作文されることと思いますが、その際のご参考まで問題点を指摘しました。
送り仮名(カッコ内は現代仮名遣い)
辞別(ことわ)きて白さく、畏くも天皇(すめらみこと)には今年十月(かんなづき)の吉日(よきひ)に即位礼(あまつひつぎしろしめすいやわざ)執り行ひ、十一月の吉日に大嘗祭(おおにえのみまつり)をも、厳しく斎(いわ)ひ行はせ給ふ事の由を、仰せ出(いだ)させ給ひて、古(いにしえ)の法(のり)の随(まにま)に、神卜(かんうら)に卜(うら)へ給ひし程に、この(都道府県)を悠紀(ゆき)(主基(すき))の地方(くに)と勅定(さだ)めさせ給へり。かれ、県内(あがたぬち)挙(こぞ)りて厳(いつ)の誉れと喜び祝(ほ)き奉りて、仕へ奉る状(さま)を、愛(め)ぐしと看行(みそな)はし、大神たちの大御稜威以ちて、県内(あがたのうち)隈なく祓へ清め給ひて、悠紀(主基)の田(みた)の奥つ御年を初めて、県内(あがたのうち)より献らむ海川山野の種々の物実をも、浄く清(すが)しく豊かに稔り足らはしめ給ひて、天皇の大御代に一度(ひとたび)の御大礼(おおみいやわざ)を厳しく美(うる)はしく畢(お)へさせしめ給へと、恐み恐みも白す
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