前日の記事まででいちおう完成しましたので、まずは全文を以下に掲げてみます。
【冒頭部】此の処(ところ)は朝日の直刺す処、夕日の日隠る処のいと吉き処と、是の某神社の祖霊殿(みおやどの)に鎮り坐す挂けまくも畏き代代の祖先等(みおやたち)の御霊の御前に職氏名い、恐み恐みも白さく、
【おまつりする】長き冬の寒きも漸漸(やややや)に和らぎ、あづさゆみ春去り来たりて、山桜・千島桜の笑まひ開くを、我どちの待ち遠に待ちゐたる今日の生日の足日に、御氏子・崇敬者等(まめびとら)の遠近(をちこち)より持ち参(まゐ)来たる人形(ひとがた)をば、今し御前にここだく据ゑ並め奉りて、年毎の例と定むるが故に御祭(みまつり)仕へ奉ると、此の処を厳(いつ)の斎庭(ゆには)と種種(くさぐさ)に装ひ設(ま)けて、振る大麻(おほぬさ)の音もさやさやに祓へ清めて、
【おそなえする】献奉(たてまつ)る幣帛(みてぐら)は、御食・御酒を初めて、鏡如(な)す餅(もちひ)、鮮(あざら)けき物と魚(うお)、山野の物と甘菜・辛菜、香(かぐは)しき物と木(こ)の実に至るまで献奉り、
【おがむ】御前に据ゑ置き奉る人形の御霊和ませ給へと乞ひ祈み奉るが為に、謝(ゐや)び奉り敬(ゐやま)ひ奉る志(しるし)の為と玉串をも捧げ奉り、鹿(しし)じもの膝折り伏せて拝み奉る状を平らけく安らけく聞し食して、
【おねがいする】汝命等(いましみことたち)の愛(め)で給ひし御心の任(まにま)に、今ゆ往先(ゆくさき)、人形の御魂はも、猛ぶることなく、荒(あら)ぶることなく、此の処よりは、天のまほらま、国のまほらま、常世の浪の敷波(しきなみ)寄する処とも、また山川を見遥かす清き明き処とも導き遷し坐して、和魂、また幸魂・奇魂とも為し給ひて、御前に参列(まゐつらな)む者等の真心を諾(うづな)ひ給ひ、夜の守・日の守に守り給へと、
【結尾部】鵜じもの頸根(うなね)衝(つ)き突きて、神職(かむづかさ)厳(いか)し桙(ほこ)の中執り持ちて、恐み恐みも称辞竟(を)へ奉らくと白す
推敲する上での注意点をいくつかあげて、人形感謝祭祝詞については終了とします。
まず、文法上のまちがいはなかなか見つけにくく、日ごろの修練に尽きるとしかいえません。われわれが中学校や高校で学習する古典文法は、源氏物語を初めとする王朝文学の時代を基準にしています。それに対し、祝詞はより古く、上代を模範としていまして、文法も異なるところがあります。ですから専門書を読むのが大変であっても、日々、記紀や万葉集などに触れて語句の解説に触れ、上代の文法に関する知識を増やしていく努力が必要でしょう。
より具体的なところを述べますと、できあがった草稿の全文を通して読んでみて、引っかかるところをチェックしなければなりません。そういう語句は、本番のときにもやっぱり引っかかることが多いからです。それがじぶんにとって読みにくい漢字でしたら、もちろん読みやすいものに変えます。
祝詞のある一部分を、例文集などを参照して作文することもあるでしょう。それにしても、そのまま引用しなければならないわけではありません。祝詞は小説のように読んで楽しむものではなく、奏上してその内容を聞いていただくものですから、どのような字で表記されているかよりも、「音」の方が大事です。原文でつかわれている難しい漢字は、じぶんが読み誤らないような字に改めるべきです。
つぎに、これは議論のあるところかもしれませんけれども、本番で奏上して初めて、その祝詞は尊いものになり、奉書紙に書かれたものもその取り扱いに注意しなければなりませんが、奏上前ならば音読してもさしつかえない、と私は考えます。そこで、草稿を実際に口に出して読んでみて、引っかかるところをチェックしましょう。黙読だけでは見つからない箇所も、思いもよらないところできっと出てくるはずです。
そうすれば、祝詞奏上のときにもよい緊張感をもって、臨めるはずです。
このブログではここまでずっと、書き下し文をもって説明してきました。しかし、推敲を終えたあとは、奉書紙に宣命書で墨書しなければなりません。
ですので、このブログで便宜上、書き下し文で今後も説明していくにせよ、特にまだ慣れていない人は、面倒でも最初から宣命書で草稿をつくる方がよいでしょう。いうまでもなく、宣命書を読む経験を積んで、本番の読み誤りを予防するためです。それに、奉書紙に浄書する際の割り付けも、その時点である程度できる、という利点もあります。
ついでに、浄書前にしておいた方がよいことを述べます。急がばまわれ、というわけで、一行あたりの字数の調整等をします。神様の名前は行をまたがないようにする、いちばん下に置かないなどの細かいことは、ここでは申しません。ただ、浄書しはじめてから、そのようなことになってしまった、となると、文面そのものを変えなければならなくなって、大変です。
その調整等のために、短い祝詞ならば、市販の原稿用紙に推敲後の本文を書き込んでいきます。表計算ソフトをつかって原稿用紙をつくり、それに書き込んでもよいでしょう。一行が二十字以上になるときも、やはり表計算ソフトでつくった原稿用紙に書き込むとよいでしょう。若い人はパソコンのモニター上で調整する方が、あっているかもしれません。ただ、浄書前に手書きで原稿用紙に書いていくと、思わぬところでよい表現を思いついたり(そんなときは、もちろん書き換えを検討します)、見つからなかったまちがいに気づいたりすることが、よくあります。
次回以降は、また別の祝詞について、どのように作文していったか説明したいと思います。
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