前回に引き続いて、人形感謝祭祝詞のお供えについて表現する語句をつくっていきます。
まず、お供えについて申すことについて重要なのは、実際にお供えする神饌と祝詞の内容が違っていてはいけないということです。式祝詞では例えば、
青海原の物は鰭の広物・鰭の狭物、奥つ藻菜・辺つ藻菜、山野の物は甘菜・辛菜に至る迄、御酒は甕の上高知り、甕の腹満て並べて……(春日祭)
とあります。「甘菜・辛菜」はまあクリアできるとしまして、これだと「鰭の広物・鰭の狭物」ですから少なくとも二種の魚を、また「奥つ藻菜・辺つ藻菜」ですから二種の海藻をあげなければなりません。どちらか片方として「青海原の物は鰭の狭物、辺つ藻菜」とするのは改悪でしょう。魚にしても海藻にしても、引用文のように、この語句は二種を並べることで初めて効果が出ますので。
現代祝詞では例祭祝詞(祝詞例文集上・神社新報社)のように、
御食御酒を初めて、海川山野の種種の味物を机代に置き足らはし……
と、式祝詞に比べればだいぶ、あっさりとした表現になっています。
でも、こうあっさりしては当初想定していた分量にはとても足りませんので、何とか両者の中間あたりまで詳しく申すべく、ふくらませてみます。
まず、「献奉(たてまつ)る幣帛(みてぐら)は」とおおきく構えて、この部分を始めてみます。「幣帛」はさまざまな意味がありますが、ここではもちろん、お供えのこと。なお、この部分の結びは「献奉り」です。
献奉る幣帛は……献奉り
上記の「……」の部分に、お供えの内容を入れていくわけです。無駄に「献奉る」をくりかえしているようですけれども、祝詞ではよくある、いわば構文といった表現です。似た表現として「辞竟(ことを)へ奉らくは……称辞(たたへごと)竟(を)へ奉らくと白す」などがあります。
実際のお供えは献饌の順に、「御食・御酒を初めて」から入りましょうか。といって、必ずしも全部が全部、献饌の順番どおりに申さねばならないわけではありません。なお、「御食」はここでは狭い意味で、お米のことです(神饌全体、お食事という意味で「御食」ということもあります)。
ついで餅をあげます。重ねの、いわゆる鏡餅タイプとして「鏡如(な)す餅(もちひ)」としましょう。「如す」は「~のように」。「鏡の如(ごと)き餅」と申しても同じです。
つぎは魚にしましょうか。「鰭の広物・鰭の狭物」はつかえませんので、「新鮮なものとして魚を」として古語にすると、「鮮(あざらけ)き物と魚(うお)」となります。もっとも、新鮮な物を選ぶのは神饌をととのえる大前提ですから、魚だけ新鮮うんぬんと申すのは議論のあるところかもしれません。
野菜は「甘菜・辛菜」でよいでしょう。式祝詞の表現を借りて「山野の物と甘菜・辛菜」とします。厳密には対句になりませんが、直前の「鮮けき物と魚」を踏まえて、「と」をつかって並列させてみます。
ついで果物。もっとも自然な古語はコノミ、「木(こ)の実」と表記するか、「果」と書いてコノミと読むことにするか。「木の実」の方がよいかもしれません。魚、野菜をせっかく「Aな物と魚」、「Bな物と甘菜・辛菜」としましたので、「Cな物と木の実」とつづけたいところです。この「C」はいろいろ考えられますが、ここでは「香(かぐは)しき」としてみましょう。
おおむね出そろいましたので、まとめてみます。御食・御酒に始まって、果物に至るまで献奉る、ということで、
献奉(たてまつ)る幣帛(みてぐら)は、御食・御酒を初めて、鏡如(な)す餅(もちひ)、鮮(あざら)けき物と魚(うお)、山野の物と甘菜・辛菜、香(かぐは)しき物と木(こ)の実に至るまで献奉り
塩や水について申すこともできますけれども、ここまでで想定していた分量に達しましたので、いちおうお供えの部分、完成とします。一折すべてをこしらえて、推敲する段階で塩・水を申すかどうか決めても遅くありません。
あすは、拝礼をしてお聞き届けくださいとお願いする部分をつくっていくことにします。
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