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2017/07/10

祝詞語彙9

万葉集巻第一より
【九番歌】

莫囂円隣之大相七兄爪謁気 わが背子が い立たせりけむ 厳橿が本

〇立たせりけむ……「立つ」に三つ助動詞がついている。「す」は尊敬、「り」は完了、「けむ」は過去推量。したがって、お立ちになっただろう、という意味。

〇厳橿が本……「厳」の読みはイツで「神聖な」。「橿」はカシ。

【補足】

 祝詞作文とはあまり関係ないが、上二句「莫囂円隣之大相七兄爪謁気」は古来、訓読に諸説あって、はっきりとしていない。例えば賀茂真淵は「紀の国の山越えてゆけ」、本居宣長は「竈山の霜消えてゆけ」、鹿持雅澄は「三諸の山見つつゆけ」と読んでいる。

【研究】

「厳橿が本」は、この歌が詠まれた頃にはすでに、慣用表現になっていたかもしれません。雄略天皇記の歌謡に「御諸の厳白檮(いつ・かし)がもと」とあります。

 また「いつ」はこの歌のように、接頭語的に使えます。「いつ神籬」「いつ紙垂」「いつ注連縄」などの言い方ができるということです。「ゆつ」についても同様で、現に古事記でも「ゆつ津間櫛(つまぐし)」の用例があります。「いつ」と「ゆつ」は親戚ですから、こんにちのわれわれの目で見れば、どっちを使ってもいいんじゃないの、と思えるケースが多いのですが、似ていてもやはり違う語です。どう使い分けをすればよいのか、押さえておく必要があります。

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