万葉集巻第一より
【二十三番歌】
打麻(うちそ)を 麻続王(をみのおほきみ) 海人なれや 伊良虞の島の 玉藻刈ります
〇海人なれや……「や」は反語。海人なのか、いやそうではないだろう。
〇玉藻刈ります……「ます」は丁寧語ではなく、尊敬の補助動詞。
【研究】
「や」に注目したいと思います。
ここでは終助詞で、反語の意味をもっています。疑問の意味の場合もあり、上にどんな活用をする語がくるのかで、変わってきます。上が已然形ならば反語、終止形ならば疑問です。
本歌の「海人なれや」の「なれ」は已然形ですので、反語だと考えられます。疑問の意味なら「海人なりや」とあるところ。
「や」には係助詞の使い方もあります。例えば祝詞の慣用表現のひとつ、「いかなる禍神の仕業にやありけむ」では「や……けむ」で係り結び、「や」は疑問の係助詞、「けむ」は過去推量の助動詞なので、この表現の後半部は「仕業であっただろうか」という意味になります。
他に間投助詞の用法もありますが、ここでは省略します。
「や」に似た語として「か」があります。同じように終助詞のこともあれば係助詞のこともあり、疑問・反語の意味もあります。では「や」と「か」がどう違うのかというと、「や」は「や」を使った人には答えがある程度、予想できるのに対し、「か」はさっぱり分かっていないときに使うのです。
ですから、「海人なれや」ならば、海人でないことは内心、分かっています。本歌では麻続王という身分の高い人について、海人なのかといっていますけれども、麻続王は明らかに海人とは感じられない風貌、格好をしていたことが予想できます。玉藻を刈るといっても、いかにも不慣れな様子だったのかもしれません。
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