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2019/05/11

践祚改元奉告祭祝詞

 今日は真夏日になったところもあるそうですが、北見市相内町は最高気温10度に満たず、曇り空。こんな日はあまり参拝客もお見えになりませんので、おかための(専門的な)記事を少々。

 昨日「践祚改元奉告祭祝詞」の例文が届きました。天皇陛下が践祚(せんそ)され、改元(かいげん)された。その旨をじぶんの神社で神様にお伝え申し上げるお祭りを行う、その際の祝詞はこんなふうにしましょう、ということです。例文として示されているわけですから、これをそのまま大奉書紙に浄書して、お祭りの際に奏上するのはダメではありませんが、そういう神職はあまりいないのではないかと思います。これを参考に各自、じぶんの神社の実情も踏まえ、祝詞をつくって奏上しましょうということですので。なお、当神社では5月1日、すでに践祚改元奉告祭を執り行いました。

 神社本庁の祝詞例文は、だいたい戦前の官製の祝詞を踏まえており、簡潔でへんな装飾もなく私は好きなのですが、悪くいえば味もそっけもないというのか、最大公約数的とでもいうのか、あっさりしています。あくまで例文ですから、それでよいのかもしれません。逆に、作者の個性が出すぎている祝詞を送付されて「これをそのまま奏上しろ」といわれると、それもちょっとどうかなと思います。

 さて、今回の例文を見ますと、いくつか問題点があります。以下、私見を述べてみましょう。まずは書き下し文を掲げます。原文は宣命書、つまり漢字だらけで一般の方にはツライと思われますので。カッコ内の読み仮名は、現代仮名遣いにしました。地の文は歴史的仮名遣いです。

掛けまくも畏き某神社の大前に恐み恐みも白さく、明御神(あきつみかみ)と大八洲国(おおやしまぐに)知ろしめす (1)天皇(すめらみこと)い、(2)皇室(すめらおおみかど)の大典範(おおみのり)の随(まにま)に今回(こたび)、上皇(さきのすめらみこと)の天つ日嗣(ひつぎ)の大御蹟(おおみあと)を(3)承け継き給ふによりて、(4)知ろしめす大御代(おおみよ)の名(みな)も令和と定まりぬ。かれ、この事の由を告げ奉らくと、御祭仕へ奉る状(さま)を平けく安けく聞し食して、天皇の大御代(おおみよ)を茂(いか)し御代の足(たらし)御代と堅磐(かきわ)に常磐(ときわ)に斎(いわ)ひ奉り、幸はへ奉り給へと、恐み恐みも白す

(1)「天皇い」の「い」は前にくる語を強調する、上代によくつかわれた助詞。ただ、「天皇」のあとにくる用例を、私は見たことがありません。念のため、延喜式祝詞、戦前の官報所載の祝詞(ネットでも閲覧できます)、『神社本庁例文 祝詞例文集 上巻』をぜんぶ見てみましたが、やはりそのような用例はありませんでした。つまり、これは新たな例である可能性が高い。御代替わりで、憲政史上初となる事例が多いから、その空気が反映されたのでしょうか。私は、穏当に前例を踏まえた方がよかったのではないかと思います。

(2)一般に使われることばに置き換えるなら「皇室典範」のままに、ということでしょうか。古語への直訳のような表現で、違和感を覚えます。私には、法の定めがあるから御代替わりとなった、ととられる恐れがあると感じられます。神道人にとって、皇位はそのようなものではないですし(記紀に起源をもとめるのが神道人にとって、ふつうの感覚でしょう)、この語句が皇室典範を指していないとしたら、「大典範」という用字にすべきではないでしょう。

(3)「承け継き」の「き」は「ぎ」でしょう。単なる誤記かもしれませんし、こうした例文における表記上の約束かもしれません。原文では「承継〈伎〉」(「承継」は大きく、〈 〉内は小さく書かれている)で、神社本庁推奨の用字は「ぎ」ならば「疑」です(『神社本庁例文 祝詞例文集 上巻』による)。これが濁点を省いたものだとするなら、フリガナも清音で統一すべきでしょう(例文のほぼすべてにフリガナが付されています)。

(4)「名」と書いて「みな」と読ませるのはどうでしょうか。「御名」と表記する方がよかったのでは。それよりも私には「令和と……定まりぬ」としてしまったことが気にかかります。ここだけ取りあげるならばよいのですが、前の語句をも踏まえると「上皇陛下の大いなる御代の御事蹟を受け継がれたことで、お治めになる御代のお名前も令和と定まった」ということですから、「皇位を継承されたら、しぜんに令和となった」と解釈できます。「定まり(定まる)」は自動詞ですので、他動詞「定む」を用いて「定め給ひぬ」「定め坐しぬ」などとするのが穏当だったのではないでしょうか。

 以上、私の感じた問題点をいくつかあげてみました。最後に、できのよしあしは別にして、私が5月1日当日奏上した祝詞を以下にご参考まで、あげてみます。

掛けまくも畏き相内神社のうづの大前に宮司氏名い恐み恐みも白さく、高天原に神留り坐す皇睦・神漏岐命・神漏弥命以ちて、天つ日嗣を弥継継に相継がひ、相伝へ給ふ中に、今日の生日の足日の朝日の豊栄登に、皇御孫命の大御位に登り給ひ、知ろしめす大御代の御名をば令和と定め給ふによりて、大前に事の由告げ奉りて献奉る幣帛は、御食・御酒に言祝(ことほぎ)の御餅と紅白に供へ分け、甘菜・辛菜に時の菓子をも献奉り、鹿じもの膝折り伏せて拝み奉る状を、うまらに安らに聞し食して、皇御孫命の大御代を足らし御代の厳し御代と、堅磐に常磐に斎ひ奉り、幸はへ奉り給ひ、上皇の大御上を初めて、皇大朝廷を平けく坐し栄えしめ給へと恐み恐みも白す

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