百物語 第五十二夜
桔梗の先触れ
桔梗の花じたいは綺麗だと思うんだけどね……。
夏の朝なんかに、薄い紫色の花を見かけただけで、少し憂鬱な気分になる。
ときどき、夢で桔梗が咲いているのを見ることがあるのね。
実家の墓の前に咲いているのを見るんだけど、この夢のあとに必ず誰かが死ぬのよ。
最初に夢で見たときは、おじいちゃんが亡くなった。寒い日がつづいてた頃で、肺炎になってね。
桔梗は一輪だけ咲いていて。ふつう見かけるよりも、ちょっと背丈が低かった。
おばあちゃんが亡くなったときにはね、墓のうしろにびっしり生えてた。長いこと寝たきりで、苦しんでたから見ていられなかった。
家族じゃなくても見るんですよ。
勤めている会社の役員が亡くなったときは、七輪か八輪か……。風に揺れてたのね。小さい会社だけど、役員さんと親しいわけじゃなかったんだけど、なぜか見た。
たまにエレベーターで会うと声をかけられる程度だったし、亡くなったときのことは、詳しくは聞いていません。
息子の友達が亡くなったときは、桔梗は一輪だけで、なぜか墓の真上に咲いてた。墓から生えてるみたいに。これは真夏のことで、かわいそうに川で溺れたと聞きました。
夢の中で桔梗がどう咲くのか、何本生えているのかが、亡くなる人とどうかかわってくるのかは、全然わからないの。
ただ、桔梗の夢を見ると、人が亡くなるってだけなんです。
不吉なんだけど心の準備はできる、かな。
たぶん、自分の気持ちにどの程度影響するのか……ってことだと思ってるんですけれども。
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