Translate

2019/09/16

角の生えた藁人形4

百物語 第九十四夜

角の生えた藁人形4


※怪談です。苦手な方はご注意ください。




 どうして、これがもどってきたのか……。

 本当にもう、まいっちゃってるんです……。

 いいえ、確かに私も、お焚き上げの業者にただこれを置いてっただけなんで、あとは逃げるように帰ってきたんで、ちょっと悪いなとは思ったんです。本当に、そう思ってたんです。

 それにしてもですよ、その業者、絶対に適当なことをしたに決まってます。

 え? もどってきたっていうのは、ありえないってじぶんではわかってるんですけど、これが、この人形が、壊した壁の中にあって。最初に見つけた壁のところに、箱に入った状態であって。

 いいえ、落ち着いています。落ち着いていますよ。

 箱の部分は接着剤か何かで、ベッタリくっついたようになっていました。

 はい、ふたは開いていました。下に落ちてました。

 この藁人形、こう……手を広げた状態で、壁、じっさいには箱の中ですけれども、背中をもたれるようにして立っていました。

 ああ、思い出させないでください。思い出せないで。本当に、思い出させないでください。

 無理は承知でお願いします。本当に、お願いします。

 このままだと私、どうにかなっちゃいそうで。いや、もうどうにかなってるかもしれません。

 人形が話しかけてくるような気がするんです。いまも。そうです、いまもです。話しかけているような気がする。箱の中で、何か言っているような気がする。

 フランス語のような気がするんです。

 いままで習ったことなんて、ないんですけれども……。なぜか、フランス語なんじゃないかって気がします。

 いまは、そんな気がするだけで済んでいます。でも、そのうち絶対に何を言ってるのかわかるようになりそうで、怖いんです。

 はい、私は子供をつれて、もう家を出ています。だって、またこの藁人形がもどってきたら、怖いじゃないですか。

 もどってくるとしたら、私の家に決まってるじゃないですか。

 ああ、ほら、いま……聞こえますか?

「ンダスケ、マイネ」って言ったような気がするんですけど、これ、私の気のせいですよね?

 何も聞こえてないですよね?

 どうして黙ってるんですか?

 さっきからそんな顔して……何とか、言ってください。

 まさか、本当にこの藁人形、しゃべってるんじゃないんでしょうね。

 いま、こうやって……これが何か言っているのが、あなたにも聞こえてるんだとしたら、これは本当にまずいものなんでしょうね。

 私だけが聞こえてるんだとしたら、ストレスで幻聴が聞こえだしてるとか何とか、そんなところですよね? もしかしたら統合失調症にかかっちゃったのかもしれませんけど。

 いいえ、私が病気だったとしても、そんなこともやっぱり、どうでもいいんです。

 とにかく、これをどうにかして欲しいだけなんです。

 あなた、陰陽師なんでしょう? 本物の。

 ネットであなたがそう言ってたから、ここにきたんです。

 何とか流の何代目宗家とか何とか……あれ、嘘なんですか?

 そうですか。本当なんですね。絶対に、本当なんですね。

 本物の陰陽師。それなら、この藁人形を置いていっても、きちんとしてくれますよね? 少なくとも、私や私の家族に何かが起きるようなことはもうありませんよね?

 お金なら、ここに用意してあります。ネットで調べて、これくらいが相場だって書いてあったもんですから。

 いやいやいや……そんなことどうでもいいんです。方法はどうでも。
 
 はいはい、祝詞でも式神でも、好きなようにしてください。

 とにかく、私のところに二度とこれが、もどってこなければいいんです。そうして欲しいんです。

 これがもし私のところに、またもどってきたとしたら、訴えますよ。

 偽物だって。

 詐欺だって。

 ネットでも、あちこちで言いふらしますよ。

 本当にもう……これのせいで、私はもうめちゃくちゃなんです。

 そろそろ子供を迎えに行かなきゃならないんで、このへんで……どうか、よろしくお願いします。

 本当に、お願いします。

0 件のコメント: