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2019/09/15

角の生えた藁人形3

百物語 第九十三夜

角の生えた藁人形3


※怪談です。苦手な方はご注意ください。


 どうしてうちに持ってきたのか、わからないんですよね。

 檀家さんでもないし、うちは別に名前の通ったお寺ってわけでもないのに。

 一般の人には、檀家寺とか祈祷寺とかいっても、ピンとこないだろうし。まあ、近くの寺だからって、持ってきたんでしょうね。

 いやいや、ちゃんとお経は読みましたよ。儀軌にのっとってね、そう、次第がありますから。

 おたくの会社に持って帰って、すぐ火入れしてもらって大丈夫。

 だいたい、見るからに念のこもっているような、忌まわしいものですからね、これは。こっちに何かあっても嫌ですし。念入りに供養しました。

 ああ、箱は開けないでください。開けない方がいい。そのままお持ちください。

 まちがいなく、くだんの藁人形、入ってるから……振ったり、ゆすったりもしない方がいいね。

 よけいなお世話だけど、あなたまだ若いんだから、こういうことからはなるべく離れて、何も経験しない方がいい。そういう機会のない方がいい。やっぱり取り返しのつかないことって、ありますから。

 私も霊感があるわけじゃないんだけど、長年やってると、たまにはね、こういうことがある。

 人が亡くなったのを弔って生活させていただいてるわけですから、その人の思い、感情のようなものが伝わってくるようなことはありますよ。

 でも、これはね……ふつうに亡くなった方の気持ちが残っている、そんな生易しいもんじゃない。

 悪意を感じるんですよ。

 いつのものかは、わかりません。この角の生えた藁人形そのものは、もちろん物質なんですから、何百年も前のものではないでしょう。

 せいぜい数十年くらいでしょうが……それにしても、こんなふうに黒ずんでいて、かろうじて藁でできているってわかるくらいで……誰が見ても禍々しいもんだって、わかるくらいですよね。

 脅かすようで申し訳ないけど、正直なところ私の供養が、ちゃんとできているかはわからないんです。

 いやあ……くりかえすけれども、きちんとやりましたよ。

 きちんとね。

 でも、怒った人をなだめたのが、かえって怒らせた……。人間関係だって、そんなこともあるんだから。

 だからこうして、封印したんです。万一のことを考えてね。

 そういうものなので、この箱は絶対に開けないでください。

 直接、手に触れたり、見たりするのさえ、よくないはずですから。

 いちおうお話ししておくと、お経を読んでいる途中、確かに奇妙なことがあった。

 ほら、この壇の上に置いておいたんだけど、そこでね……何だか大きくなったり、小さくなったりするんだ。いや、そこまでじゃない。呼吸してるような感じで、ふくらんで、しぼんで、っていう方が近いかもしれない。

 それに合わせて、御本尊のろうそくが両方とも、一気に燃え上がったんですよね。うん、これくらい……床から二メートルくらいかな。このろうそく、五十センチくらいだから、けっこうな炎でしたよ。

 読経中にろうそくの炎が、って、けっこうあることなんですよ。でも、そこまで火があがったことなんてなかった。

 私はこのろうそくの炎、御仏からの働きかけ、お示しだと思ってるんですがね。

 今回は、どうとらえたらいいか……。「おまえの供養を確かに受けたぞ」というのとは、違っているかもしれない。

「これはまずいものだから、気をつけろ」と、お示しくださったのかもしれない。

 いやいや、おどかしてすみませんね……恐らくこれは、浄火で燃やせばそれで終わりでしょう。

 ただ、火ですからね。実際に火を扱う人には、くれぐれも気をつけて。

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