百物語 第十七夜
女性不信
※怪談です。苦手な方はご注意ください。
実家が運送屋なもんでね。大学生の頃は毎年、春休みになると駆り出されたんすよ。
その頃、ウチみたいな零細は大きい引っ越しはあまりなくて、ひとり暮らしの学生とか、若いサラリーマンとかばっかで。
軽トラがけっこうあったんすけど割と安い料金設定なもんすから、それなりに忙しかったんすよ。バイト代はたいした貰えんかったけど。
最初の年はずっとサブでね、ふたり一組で行ってたんすけど、三月の終わり頃になって、いよいよ忙しくなってきたら、オレひとりってことも、けっこうあったんすよ。
そうす。最初の年からっす。
オヤジが見積もりの内容見て、割り振りを決めるんすよ。それでひとりでも行けるってなったら、無理だろ、これはってとこでも行かされたんすよね。
免許とりたてだし、ホロついてるから後ろは見えないしで、たまに電柱にコスって怒られたりしてね。
何とかひとりでもやれるようになって、そんなんで四年やってね。
大学卒業する春だったな。ひとりで行けるってとこに、やっぱ軽トラで行かされたんすよね。
女性のひとり暮らしで、ワンルームだったからそんなに荷物なかったんすけど、最後にどうしても積み込めないダンボールが残っちゃったんすよね。
いや、もう五回目すから、積み方は悪くなかったはずなんす。
見積以上に荷物増えちゃうってことは、よくあるんすよね。お客さんが自分で荷造りしてる場合なんて、特にそうす。
でも即日引き渡し、転居先に運んで終わりって聞いてたんで、これくらいなら助手席に乗せますよって、いっちゃったんす。いえ、料金はそのままでってね。
初対面だってのに愛想のいい人だったし、何だかんだ気をつかってもらってね。ペットボトルのお茶ももらったし、まあそのくらいはね。
ただ、ダンボールには何も書いてないけど、壊れものだったら取り扱い注意すから、いちおう聞いたんす。
「これ、中は何すか?」
その人がね、一瞬オレを睨んだんすよ。
そうす。ホントに一瞬だけ。それまでニコニコしてたんすけどね。
「あ、壊れるようなものでは、ないです」
よくわかんねえなって思いながら、そういうならいいかってダンボールを助手席のシートに置いて、車に乗りこんだんす。
引っ越し先にむかってたら、何かね、車のどこかで、がさごそいいだしたんすよね。
車に何かあって使えないってなったら、その分、売り上げが落ち込むんで、オヤジがうるさい。オレもけっこう神経質になってたんす。
気にしすぎかなって思いながら運転してたんすけど、エンジンや電気系統じゃないだろう。
じゃあどこだって、信号待ちのときに耳を澄ませてみたんす。
そしたら、すぐ横のダンボールがごそごそいってた。
生き物かなって思ったんすよね、初めは。最後に積もうとした段ボールだったし。それにしてもペットを積荷にするなんて、なんてやつだって腹が立ちました。
どういうつもりだ、ってね。でも、開けてみるわけにはいかないじゃないすか。
だからほっといて、そのまま運転したんすよ。
そのうちね、何か車の中が臭くなってきたんす。
何だろうな、トカゲかヘビか……。いや、こんな臭うのって、イヌとかネコじゃねえんか。
無意識にオレ、ひとりごといっちゃったんす。
「まいったな―― そういってくれりゃよかったのに」てね。
そしたら妙にハッキリした声で、
「だから、いった、じゃないか」
そうそう。そうす。段ボールの中のものが、反応したんす。ひとことずつ区切るみたいにね。
男の声だったけど耳に障るかんじで、もう嫌になっちゃってね。できるだけ早く着きたいって、飛ばして。
引っ越し先についたら、例の女はもう着いてて、にこにこしながら待ちかまえてたんす。
次の日筋肉痛になってもいいやって、急いで荷物を運んでね。うん、助手席の段ボールはもう、最初に運び込んでね。
全部済んで料金受け取ったときに、
「ご苦労をおかけしました」
深々と頭をさげて、またペットボトルのお茶をいただいたんすけど……。
一瞬、オレを睨んだときの顔は何だったんだ。
それより、段ボールの中身はいったい何だったんだ。
それからどうも女の人って、苦手なんすよ。女って、オレにはどうやっても理解できないんだなあ、きっと。いやいや、もともと男に興味があったってわけじゃなくて。
結婚なんてとても無理っす。
たぶん、一生このまま独身すね。
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