百物語 第四十一夜
かしきゆ
※怪談です。苦手な方はご注意ください。
父が亡くなったのは平成十五年の夏です。わたしはまだ大学生で、東京に住んでおりました。
春先に入院したのですが、わたしが夏休みに帰省したときには、三か月くらいだろうと余命宣告を受けたと家族から聞きました。
ああ、これが父を見る最後になるのかもしれないって、お見舞いに何度も通いまして……休みの終わるぎりぎりまで実家にいて、東京に帰りました。
その日、電車に乗ろうとして駅ビルの中を歩いていますと、ふとお菓子屋さんの一角が目に入りました。
お土産を持って行く人はいないんですが、なぜか気になって気になってしかたなくなってしまい、とうとう買ってしまったんです。
菓子折りをひとつ……。
電車に乗ってからまた不意に、あれ、わたしなんでこんな菓子折り買っちゃったんだろう……なんて思ったりしているうちに、東京のじぶんの住むアパートに着きましてね。
それで、そんな菓子折りを買っても別に食べたいわけでもないからって、テーブルの上にポンと置いて、荷物を整理して、シャワーを浴びました。
ああ疲れたってボーッとして、しばらくテレビをなんとなく見ているうちに、また菓子折りが気になりだしたんです。
おかしいよなあ、なんで買っちゃったんだろうって。
こんなの好きな人まわりにいないから、だれかに渡すわけにもいかない……それで包みを開けてみたんですけれども、びっくりした。
十個入りだったはずが、七個しかないんです。
当然、その三個分のスペースがスカスカになってました。
すでに包装されたものを買ったので、つくるときに工場の方でなにかまちがえたんだろうって、ひとつ食べて。
電話して文句いってもなあ、三個足りないなんて変だし、頭おかしいクレーマーだと思われるんじゃないかなあ、なんてあれこれ考えていると……携帯に、連絡が入ったんです。
父がたった今亡くなった、という知らせでした。
実家にとんぼ返りしまして、すでに家に戻ってきていた父と対面しました。
そこへ伯母さんが……父の姉がやってきまして、
「亡くなる直前にね、あなたのところへ行ったっていってたのよ。なんかなかった?」
「いえ、なにも……」
「そう……会いたいあまり夢でも見てたのかしらね。もなかをあなたに勧められて、三つも食べたって話してたんだけど」
わたしが買った菓子折りは、もなかでした。
でも、わたしは父に勧めてなんかいないし、別に生前、父がもなかを好んで食べたってこともありません。
だいたい、包装をひらいてみて初めてみっつなくなっているって気づいたんですし。
ぜんぶ葬儀に関するあれこれが終わって、また東京にもどったところ、もなかは腐れていました。
いいえ、変なことはないですよ……まだ暑い時期ですし、冷蔵庫にもいれず、テーブルの上に置いたまんまでしたから。
それに、数も合っていました。
だれが父にもなかを勧めたのか。
謎は、それだけです。
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