百物語 第九十六夜
角の生えた藁人形6
※怪談です。苦手な方はご注意ください。
いや……お恥ずかしい。
お恥ずかしい話ですが、失敗でした。
全面的に、私のミスです。
ただ、これに対してお経でも祝詞でも、式神にどこかへ連れ去るようにさせても……どうやったって無駄だと思ったのは、まちがいない……それが、いつわらざる心境というのか、最初にこれを見たときの私の第一感でした。
これをできるだけ、ひどく扱って、ひどい処理の仕方をする……これが、戦略としてまちがっていた。
ええ、認めます。認めざるをえませんよ、こうなってしまっては。
私じしんはともかく、人様に迷惑をかける形になっちゃったんで……。
最後にどうしたかというと、私はあれを、燃やせるゴミとして出したんです。ゴミ捨て場に。
私の家から、ちょうど通りをはさんで向かい側にゴミ捨て場がありますから、収集にくるのを待って、見届けようとしたんですよね。
先日あなたにお見せしたように、お寺さんが封印した桐の箱に入ってましたが、若干大きい木箱があったんで、それにおさめましてね、市指定のゴミ袋に入れて出したんですよ。
はい、ひどい扱いをしてやるってことで、他のゴミもいっしょですよ。
ところが、業者が収集にきたら……バッテンシールを貼って、置いていったんです。分別がまちがっています、っていう、あのシールです。
モノとしては、木の箱に藁、ですよ。
他のゴミにしたって、燃やせるゴミばかりです。
私、業者のやつ、何を見てやがるって、ゴミ捨て場に行ってみたんです。
私が出した袋は無事収集されたんであって、見間違えたんだ、他の人のゴミが残されたんだ……そんな期待もしてたんですけどね。
でも、見てみたら私の出したゴミ袋だった。
しかも、なぜかステンのパイプが入っている。
いや、絶対私はそんなものを入れていません。私がその日の朝に出したんですから、出したとき、そんなのが入っていなかったのは断言できます。
私がゴミ袋を置いてから、誰かがネットをとって、そのゴミ袋にパイプを入れたか。
私の頭がおかしくなっていて、知らないうちにどのタイミングかでパイプを入れたか。
この藁人形がパイプを引き寄せて、収集できないようにしたか……いや、あなたそれは……怪談の読みすぎでしょうよ。案外、そうなのかもしれませんが。
それからパイプをとりましてね、次の燃やせるゴミの日に出したんですよ。あくまでこの方法でやるんだ、って、今から思えばやっぱり何かに憑かれてたのかもしれません。
それで私は、家の窓から収集するのを見ていた。
だいたいどのへんにじぶんのゴミを置いたか、わかりますから……ゴミ収集車がきて、作業の人が降りてきて、ネットをとり、ゴミをどんどん放り込んで……そんな様子を、いちぶしじゅう、見ていました。
私が出したゴミ袋も、無事に収集車に放り込まれて……ああ、成功だ、よかった。
こうするのがよかったんだって、思った瞬間ですよ……爆発したんです。
ええ、爆発。パーン、と……。
えってなって……収集車はもう動きだしていましたし、私はもう、窓から離れようとしていたんです。
見ると、収集車の後部が燃えています。
少し前に、ちょくちょく見かけましたよね。ガスを抜いていなかったスプレー缶が、ゴミとして収集されたときに、爆発することがあるって。テレビでね。
ぱっと見たところは、そんな感じでした。
でも、記憶は定かじゃないですが、スプレー缶の爆発とは、音が違っていたようなんです。
私が聞いたのは、何かをアスファルトに叩きつけたような、乾いた音でした。
よく、飛び降りした人が地面に叩きつけられたとき、そんな音がするっていうでしょう?
そんな音でした。
それから……うん、それからねえ……。
まあ、あまり私の周辺も、いい状況じゃないんですよ。
お恥ずかしい話なんですが、息子が心中未遂を起こしましてね。
未遂は息子の方だったんですが、お相手が人妻でして、亡くなったんです。今日もこれから、その後始末に行ってこなきゃなりません。
いや、まあ……そうなんでしょう。
これは、子供に影響が出るもんなんでしょう。
私はやっぱり、この藁人形をモノとして見ることができなかった……それが敗因です。修行不足だったんですね。
ああ、藁人形はもう、物質としては存在しません。
それがよかったのか、悪かったかはわかりませんが、もう他のゴミと一緒に処分されたか、爆発騒ぎのときに燃え尽きたかでしょう。その瞬間までは、さすがに見届けていませんけれども。
でもね、ステンのパイプの方が残ってるんです。
見たところ、新しいようだし、サビも汚れもないんですが……これを置いておくと、悪いような気がしてならないんです。
五十センチくらいですかね。いったい、どこから来たんですかね……何の一部だったんですかね。
燃やせないゴミで出すのはどうも……私には、これに藁人形の魂が移ったように思えますんで。
同じ失敗はしたくないんです。
じゃあそろそろ出かけますんで……今日はまず警察に行ってから、病院へお見舞いに行きます。はい、息子の後始末なんですよ。
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